これはただの日記

なにも考えていないようだ

Engineering Manager になってから身に沁みた12のアイデアと言葉

本記事は、 Engineering Manager Advent Calendar 2019 の21日目の投稿です。

あなたはだれ

スタディストという会社で、2018/9から SRE チームの Engineering Manager を担当しています。2019/9より開発組織全体の副部長を兼任し、活動をしています。

この記事を書く背景と目的

そこそこ昔から、チームや組織に関する書籍が好きで読み漁っていたのですが、 Engineering Manager になってから改めてそれらの書籍を読み返すと、これまでとは違った感じ方をできるようになりました。また、買った本の読み方も大きく変わったような感覚を持っています。そんな気持ちを皆さんとも共有したいと思い、私が最近よく読み返す書籍の中から、身に沁みた言葉・考え方をいくつか紹介したいと思います。何か1つでも参考になるアイデアがあれば幸いです。

Engineering Manager に限った話ではなく、いわゆる組織の Manager にとって大切な言葉や発想が中心になっていますが、ご容赦いただければと思います。

ジョブ・クラフティング

皆さんも肌感覚としてはあると思うのですが、人は自分の仕事に対し価値を実感している時の方が人生の幸福度は高いものです。「ジョブ・クラフティング」のアプローチは、この心理的な習慣をキャリアに応用したもので、端的に言うと、「自分が価値や意味を感じやすいような仕事を自分でデザインしよう」ということです。この考えに、私自身もたいへん影響を受けており、自社のチームポリシーに、自身の役割に囚われず、やりたい仕事には手を上げて欲しいことを明文化しています。そして、そのことを実践している仲間がすでに複数名おり、彼らはモチベーション高く働いていて、ジョブ・クラフティングの考え方に価値があることを実感しています。

参考書籍:『Learn Better』

継続的な帰属シグナル

帰属シグナルとは、自分のことを気にかけてくれている人がいるというメッセージのことです。そして、帰属シグナルがあることによって、人間の態度は一変します。(もちろん、良い意味で。)ただし、ここに1つ大きなポイントがあり、帰属シグナルは継続的に送らなければならないということ。人間は、「危険」のシグナルを常に探しているため、継続的に帰属シグナルを送ることで、はじめて良い関係性を維持することができます。

参考書籍:『THE CULTURE CODE』

THE CULTURE CODE 最強チームをつくる方法

THE CULTURE CODE 最強チームをつくる方法

レッテルではなく、いま目の前にいるその人とコミュニケーションしなさい

私たちは、何に対してもレッテルを貼ります。一度、頭で「この人は◯◯な人」と思い込んでしまえば、例え目の前にいて対話をしていたとしても、その先入観で相手のことを見てしまいます。結果、相手との接し方も、レッテルに縛られたものになります。レッテルが、その人ではないにもかかわらず。 「いま、ここ」に意識を向けることで、相手のことを真に理解しようとしなければ、と改めて考え直した一文でした。

参考書籍:『こころの対話 25のルール』

こころの対話 25のルール (講談社+α文庫)

こころの対話 25のルール (講談社+α文庫)

相互探求

最も生産的な学習は、主張と探求がバランスしている時に起こります。全員が自分の考えを明らかにし、意見し合うことで、学習をより一段階深めることができます。つまり、相互探求を意識的にデザインすることが、チームの学習を促進する上で大切なことなのです。では、このことを Engineering Manager の普段のお仕事にどう活かすかというと、チームで意思決定をする際に、お互いの意見をテーブルの上に出し切ってもらうようなファシリテートを意識する…といった具合です。

主張一辺倒の場合、議論に勝つことが目標になる。探求と主張が融合されている場合、「議論に勝つこと」はもはや目標ではなくなり、「最善の議論を見出すこと」が目標になる。

参考書籍:『学習する組織』

バイパス管理

皆さん、ホーソン実験はご存知でしょうか。結論部分だけをお伝えすると、組織におけるインフォーマルグループ(非公式な集団)の有無が組織の生産性に大きく関わるというものです。この時、インフォーマルグループの有無は、物理的条件や金銭などの外部誘因よりも生産性に寄与することが分かっています。つまり、組織の成果をマネジメントするにあたって、インフォーマルグループを活用しない手はないのです。このことを、本線ではない、という意味で、バイパス管理と呼びます。以下の参考書籍では、「良いバイパス管理とは何か?」といったテーマにも触れられているので、気になった方はぜひご一読を。

参考書籍:『無理・無意味から職場を救うマネジメントの基礎理論』

無理・無意味から職場を救うマネジメントの基礎理論

無理・無意味から職場を救うマネジメントの基礎理論

  • 作者:海老原 嗣生
  • 出版社/メーカー: プレジデント社
  • 発売日: 2015/04/06
  • メディア: Kindle

感情報酬

感情報酬は、言葉の通り、ワクワクやドキドキのような感情の報酬のこと。近年、機能的な価値から感情的な価値に重きを置かれるようになってきていて、チームで働くことにおいても同じことが言えます。つまり、自分たちと一緒に働くことに対し、ワクワクやドキドキを提供できないと、採用における競争力がなくなってしまうということ。感情価値や感情報酬という言葉は、昔の自分なら綺麗事と一蹴していたかもしれないなーと思いつつ、 Manager になった今なら分かります。目に見えないもの、大切ですよね。

参考書籍:『ハートドリブン』

人間は限定合理的な生き物である

限定合理は、感情が行動に影響を与えることです。そして、すべての人間は限定合理的な生き物です。先ほどの感情報酬に書いた内容とも共通しますが、いっしょに働く仲間の感情はとても大切なのです。そういったものを無視し、戦略を突き詰めようとする姿勢は、いかにも一流のビジネスマンのように見えますが、結果は逆です。組織の成果が、戦略×行動だとすれば、戦略にしかアプローチできていないことになるため、効果は半減です。組織と事業が両輪の関係にあるとはそういうことです。

参考書籍:『すべての組織は変えられる 好調な企業はなぜ「ヒト」に投資するのか』

4Dx(実行の4つの規律)

4Dxは、『戦略を、実行できる組織、実行できない組織。』という書籍で掲げられている戦略を実行するための4つの規律のことです。本書の考え方は、何度も参考にさせてもらっています。具体的には、私が Engineering Manager を務めるSREチームでは、4Dxの考えをもとに仕事のリズムを組み立てています。

  • 第1の規律:最重要目標にフォーカスする
  • 第2の規律:先行指標に基づいて行動する
  • 第3の規律:行動を促すスコアボードをつける
  • 第4の規律:アカウンタビリティのリズムを生み出す

参考書籍:『戦略を、実行できる組織、実行できない組織。』

戦略を、実行できる組織、実行できない組織。

戦略を、実行できる組織、実行できない組織。

課題葛藤と関係葛藤

仕事においては、私たちが想定しているよりも、遥かに信頼関係が重要です。課題葛藤は決定に関する意見の不一致のことで、関係葛藤は感情の行き違いのことです。課題葛藤は健全なもので、組織の意思決定をより良くするために必要ですが、課題葛藤が高まると関係葛藤も高まる傾向にあるそうです。結果、チームの士気の低下につながります。 …では、どうすれば関係葛藤の高まりをおさえられるのかというと、まずは信頼関係を築き、関係葛藤をコントロールすることからはじめよ、というのが結論です。そうすることで、心置きなく課題葛藤に向き合うことができるのです。ビジネスにおいては、何よりもまず信頼関係が大切ですが、そのことを分かりやすく示した言葉ですね。

参考書籍:『一兆ドルコーチ』

ヤンキース戦略か、ベアーズ戦略か

『ワーク・ルールズ!』で紹介されている一節です。ヤンキース戦略は、最高の人材を雇ったチームの例え。一方、ベアーズ戦略は、平均的な人材をじっくりと育てようとすることの例え。どちらのチームのパフォーマンスが優れているか?の答えは、ヤンキース戦略だと書籍では結論づけています。この話題は、「採用は最重要の人事戦略である」ことを示す最適な例だと思います。この事実とあわせて「最高の人材は、知性や専門技術といった唯一の属性によって定義されるものではない」という言葉も肝に銘じておくべきでしょう。

参考書籍:『ワーク・ルールズ!』

生産的なよそ見

組織は生産的なよそ見を推奨することで、今後の新たな機会を先に試すことができます。特に、同僚の仕事を見る機会をつくることは、生産的なよそ見として良いプラクティスです。お互いにフィードバックを送り合うことで、同僚から学べるようにし、ときにはチームの垣根を越えた取り組みを生むきっかけにもなるからです。

参考書籍:『EXTREME TEAMS』

チームが良くなれば事業やプロダクトが良くなるという思い込み

最後に、最も大切な点について触れておくべきでしょう。それは、私たち Engineering Manager の役割は、チームを良い状態に保つことだったのか?ということです。いいえ、違います。あくまでも、私たちが目指すべきは、自分たちのチームに求められる責務を果たすことであり、それは事業やプロダクトを良くし、お客様に貢献することなはずです。ですので、その目的達成のために、チームを良い状態に保つことは、必要条件なのか、願望なのかは切り分けて考えるべきです。いくら良いチームでも、事業やプロダクトに大きな価値を生み出せていない状態では、チームそのものの存在理由を失ってしまっているのではないでしょうか。Engineering Manager の仕事の話題は、ピープルマネジメントに焦点があたりがちですが、自分たちの責務をまずは果たせるようなチーム運営を念頭において仕事をしていきたいものです。自戒を込めて。

参考書籍:『エラスティックリーダーシップ』

エラスティックリーダーシップ ―自己組織化チームの育て方

エラスティックリーダーシップ ―自己組織化チームの育て方